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岸田文雄首相が5月7日、就任後初めて韓国を訪問し、尹錫悦大統領と会談した。
3月には尹氏が大統領として初来日した。短い間に両首脳が相互訪問するシャトル外交を始めたことは日韓の関係改善を示す機会になった。
会談では安全保障、経済などで両国が緊密に連携することで合意した。
地域の安保環境悪化を踏まえ、日米同盟と米韓同盟、日韓・日米韓の安保協力によって抑止力と対処力を強化することが重要との認識で一致した。
尹氏は4月の訪米時の米韓首脳の共同声明で、日米韓協力の重要性を確認した。一連の首脳外交で日米韓は安保協力強化の姿勢を、中国、北朝鮮、ロシアという周囲の専制国家に示した。抑止力向上に資するもので妥当である。
北朝鮮による日本人拉致問題をめぐっては、尹氏が日本の立場への支持を表明した。
安保や拉致問題をめぐって、日韓の協力推進は重要である。
一方で、日韓の溝の深さが改めて露呈した。韓国海軍艦艇が自衛隊機にレーダー照射した問題は具体的解決策が示されなかった。
岸田首相は会談で、日本側が朝鮮統治をめぐって「痛切な反省と心からのおわび」に言及した1998年の日韓共同宣言に触れ、「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」と尹氏に伝えた。これも謝罪表明ではないのか。首脳会談のたびに日本側が謝罪を繰り返すのは疑問だ。尹氏は歴史よりも安保の問題を優先する姿勢を示すが、十分な実は伴っていない。
岸田首相は、いわゆる徴用工問題に対する韓国政府の解決案提示に言及した中で、「当時厳しい環境のもとで多数の方々が大変苦しい、悲しい思いをされたことに心が痛む」と述べた。
「徴用工」をめぐっては、そもそも日本側に謝罪したり賠償金を支払ったりするいわれがない。第二次大戦当時、多くの国で行っていた勤労動員にすぎず、賃金も支払っていた。史実に反する言いがかりをつけられた日本側こそ被害者であるのに、岸田首相の発言は加害者という印象を植え付ける。主客転倒の誤った発言で、極めて残念である。
未来志向の日韓関係を築くことが望ましいが、険しい道のりが続くのは明らかだ。
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2023年5月8日付産経新聞【主張】を転載しています